先日、SNS上で「地方在住の増加」という言葉がトレンド入りしました。ビッググローブが実施した「在宅勤務に関する意識調査」で、在宅勤務が一般的になった場合に起こり得ることとして「地方に住む人が増える」(38.8%)という記事によるものでしたが、地方移住への関心が高まるなか、どの地域、どの都市を選ぶか、半年間にわたり12の中核都市について「移住と暮らし」という視点からさまざまな実態をお伝えします。3回目は新潟県の「新潟市」です。
積雪少なく首都圏へのアクセス恵まれた田園環境都市
政府は、5月14日に全国39県の「緊急事態宣言」の解除を正式に決定しました。新潟県では既に5日にバーやカラオケボックスなどの遊興施設とパチンコ店などの運動・遊戯施設を除く業種への休業要請や居酒屋を含む飲食店に求めていた営業時間などの短縮を解除しており、新潟市においても市民への外出自粛の要請などが緩和されていました。
さて、第3回で取り上げる新潟市を抱えた新潟県は、ふるさと回帰支援センターの「移住希望地ランキング」で、2017年、2018年と5位でしたが、2019年は7位とわずかながら順位を落としています。一方で、全国のビジネスパーソンを対象に「快適な暮らし」や「生活の利便性」、「生活のインフラ」、「子育て」など8分野で調査したビジネス日経BP総合研究所がまとめた「住みよい街2019」で、新潟市は対象となった全国341自治体の中で33位でした。
2007年に本州日本海側で唯一の政令指定都市となった新潟市は、江戸時代には北前船の最大寄港地であり、古くから「みなとまち」として栄え、中心地には風情ある街並みも残っています。人口は約80万人ですが、誰もが都市と自然の両面の価値を享受できる「田園型環境都市」を目指しているといいます。農業や漁業はわずかなものの、ものづくりには欠かせない高度基盤技術が集積、オンリーワン技術を持つ企業も多数活躍する産業も盛んです。
雪国のイメージがありますが、海岸平野部は積雪が少なく、最深積雪平均値は36cmで、生活や都市機能、冬場の運転も支障はないでしょう。新潟市の1981年から2010年までの平均気温は下表のように13.6度で、2019年は14.6度と上昇しています。東京と比較しても2~3度の差で、関東以北の政令市として寒さはそれほど厳しくはありませんが、日射量の年平均値は 12.0MJ/㎡ ・日、日照時間の年間合計値は 1,631.9 時間で冬は日照時間が少なくなります。
(資料:気象庁資料を基に筆者作成)
新潟駅からバスで25分の距離には国際空路を持つ新潟空港、そして国際拠点港湾である新潟港を擁しているほか、高速道路など交通網も整備され、新潟駅から東京駅までは上越新幹線で最短97分、JR3路線が走る環日本海圏の交通の要衝です。公共交通機関はJRと路線バスやBRTも運行されていますが、中心地は本数が多いものの、郊外は本数が少ないこともあり、自動車の保有台数は約60万台、保有率は1.57台と自動車利用が多い都市です。
(資料:国土交通省調査より筆者作成)
(資料:JR東日本HPより筆者作成)
2020年公示地価は住宅地、商業地ともに県内で唯一上昇
3月に国土交通省から発表された新潟県の公示地価は、商業地で28年連続となる0.9%の下落なものの、前年より0.5ポイントの縮小でしたが、新潟市の伸びは顕著で新潟駅前や万代地区など調査地点の約6割で上昇しており、訪日外国人旅行者の増加が寄与しているといいます。同市は住宅地、商業地ともに県内で唯一の上昇地域で、35調査地点のうち20地点が上昇していますが、人口や都市機能が集中している中央区が多くを占めています。
(資料:国土交通省資料より筆者作成) ※カッコ内は前年実績
新潟伊勢丹やラブラ万代などの商業施設が集中する新潟万代シティは、ショッピングモールのようで若者からファミリー層、シニア層など幅広い世代まで集客力があり、今後の発展が期待されているほか、整備事業や再開発が続く新潟駅周辺も堅調です。なお、古町地区は中央区役所の一部移転や再開発など「古町再生」が進展しており、大和百貨店跡地の「古町ルフル」も入居が進んでいますが、3月に閉店した新潟三越跡の今後が注目されています。
現在、行われている新潟駅周辺整備事業は、在来線と新幹線を同じ高さにする高架化と幹線道路や駅前広場の整備が柱ですが、駅前広場は2023年度頃の供用予定で万代広場を拡張して「新潟市8区の水と緑のつながり」をテーマにペデストリアンデッキからの眺めで新潟らしさを演出するといいます。新潟市では、信濃川や阿賀野川、点在する潟をイメージした上屋を整備するとともに、さまざまな樹木を植栽することで美しい里山を表現するとしています。
(イラスト:新潟市提供)
また、新潟市の事業所数は約3万5千、従業員数は約36万人ですが、事業所数では全国の市町村ランキングで14位、日本海側の都市ではトップです。2016年の事業所数の産業別構成比では、「卸売業・小売業」(27.3%)が最も多く、「宿泊業・飲食サービス業」(12.2%)、「生活関連サービス業・娯楽業」(10.1%)などの第三次産業が盛んで約8割を占めています。現在、ニューフードバレー関連や航空機産業などの成長産業の育成も進んでいます。
(資料:「平成28年経済センサス」より筆者作成)
新潟市では、令和2年度は「活力ある拠点都市新潟」を目指し、「みなとまち新潟」を活かしたまちづくりを進めるとしています。「にいがた未来ビジョン」で掲げられた「安心協働都市」、「環境創造都市」、「創造交流都市」の取り組みを推進するとし、これら三つの都市像に「新潟市まち・ひと・しごと創生総合戦略」重ね合わせて推進することで、若者世代の流出抑制と流入促進を図り、住みよいまち・暮らしたいまちを実現するといいます。
(資料:新潟市の資料を基に筆者作成)
同市は、少子高齢化の進展により人口減少が本格化するなか、同市にゆかりのある首都圏在住者などが、地域との活動を通して新潟の魅力を発見する取り組みをさらに進め、地域への誇りや愛着を醸成し、流出抑制につなげるとともに、多様な形で継続的につながる「関係人口」の創出や移住の促進を図るため、東京圏から移住・就業する人への支援をはじめ、UIJターン世帯へのリフォーム支援や地域提案型空き家活用への支援などの取り組みを予算化しています。
子育て教育に力を入れ、育児しながら働きやすい環境
新潟県は、転出超過数が7225人と都道府県別では4番目に多く、転出超過が拡大していますが、新潟市では2017年の-673人をピークに2018年の-555人、2019年の-477人と転出超過数はやや縮小傾向にあります。なお、女性が-278人で、男性の-199人を上回った状況です。
(資料:総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」を基に筆者作成)
新潟市の移住・定住情報サイト「HAPPYターン」では、移住までのステップや移住者による体験談、住まいや暮らし、就労情報なども掲載しています。同市へUIJターンをした人同士の親睦を深め、移住後の生活をより充実したものにするための「HAPPYターン交流会」も不定期で開催(現在は中止)されています。東京には有楽町のNPOふるさと回帰支援センター、表参道・新潟館ネスパスに移住相談窓口があり、新潟県は移住相談件数の多さは全国で2位を誇ります。
こども医療費助成は、新潟市に住民登録のある0歳~中学3年生は入院と通院、高校1年~3年生は入院のみ、子どもが3人以上いる世帯は、通院・入院とも高校3年生までを対象に助成されているほか、情報提供や専門機関の案内を行い、コーディネート機能を持ち合わせた「子育てなんでも相談センター きらきら」も開設されています。また、子育てや教育に力を入れており、高等学校等の進学率は99.64%(文部科学省「学校基本調査」2017年)と全国1位です。
(資料:新潟市内の各種資料を基に筆者作成)
日本で最初に誕生した保育園は明治23年に開園した中央区の「赤沢保育園」ですが、人口1万人あたりの保育所数も政令市では1位で、待機児童数も少なく、子育てしやすい都市といわれています。2018年4月の待機児童数も新潟市では下表のように0人でした。2019年に6人と増えましたが、2020年には再び0人を見込んでいます。そして、都市公園数も政令市では2位と、子どもたちと一緒に楽しめる環境に恵まれてもいます。
(資料:厚生労働省資料より筆者作成)
政令市の中で30代の就業率は女性1位(73.8%:平成27年「国勢調査」)ですし、安心して子どもを預けられる環境、育児をしながら働きやすい環境が整っているといえますが、「子どものいる夫婦の共働き率」も1位(61.1%)で、約6割もの世帯が共働きです。ちなみに、「子どものいる夫婦世帯に対する三世代割合」も熊本市をわずかに抑えて1位(29.2%)でした。両親のサポートを受けて共働き、子育てができるのでしょう。
医療面では、ドクターヘリは新潟大学医歯学総合病院に待機しています。市内には休日・夜間の急病には新潟市急患診察センターと西蒲原地区休日夜間急患センターの2ヵ所があるほか、NICU(新生児集中治療室)を備えた病院も複数、専門性の高い「新潟県立がんセンター新潟病院」もあります。また、市内の診療所・歯科診療所(助産所含む)や薬局など情報を県が集約した「にいがた医療情報ネット(新潟県広域災害・救急医療情報システム)」があります。
大都市圏から地方都市への「移住先選択の条件」(ふるさと回帰支援センター)としては、以前は自然環境などが高いものがありましたが、最近では「就労の場があること」(68%)が「自然環境が良いこと」(28.7%)や「交通の便が良いこと」(15.5%)などを抑えて最も多く、数値が年々上がってきています。
新潟市は自然環境に恵まれ、交通インフラ等、相応の都市機能も備えていますが、今後、コンパクト化や交通渋滞の緩和が望まれるとともに、新潟駅前や古町再生、万代地区の活性化などが楽しみな街でもあります。そして、経済規模と経済活力があるだけに日本海側の拠点都市として期待されますので、さらなる移住や就業などにおいての十分な受け入れが急務といえます。地方都市への移住を考える上で同市も有力な候補地の一つといえるのではないでしょうか。