地方都市への移住を検討している方も多いのではないでしょうか。移住先を決める際には、都市の産業や子育て・教育環境、移住促進のための政策などを詳しく把握することが重要です。そこで、この記事では高知県高知市について、詳しくご紹介します。移住先を検討する際の参考にしていただければと思います。
豊かな自然に恵まれ幸福度が高い街
高知県では2020年10月5日現在、新型コロナウイルス感染症の感染者数累計は138人、うち死亡者は4人で、134人は退院している状況です。これは実数でいえば全国47都道府県中40位、人口100万人あたりの数でいっても31位と、少ない部類に属します。
とはいっても、緊急事態宣言も発令され、高知県民も不自由な暮らしを強いられたことは確かでしょう。しかし、土佐経済同友会と一般社団法人しあわせ推進会議が2020年9月25日に発表した「高知県民総幸福度」調査の結果によれば、調査に協力した県民の59.2%が「幸福だ」と感じていて、これは前回2019年の調査に比べて1.5ポイント上昇したとのことです。
土佐経済同友会は、「調査で、働くことや自然環境についても聞いたが、通勤時間が短かったり自然豊かだったりして満足度が高い。そうした要因がコロナで生活は厳しいものの幸福度の高さにつながったのでは」(引用:2020年9月25日 日本経済新聞)と分析しているとのことです。
さて、高知県はふるさと回帰支援センターが毎年調査している「移住希望地ランキング」で、2016年は11位、2017年は12位、2018年は13位、2019年は9位と毎年上位にランクインする移住先の人気県です。世代別にみても、20代以下を除く30代~70代までのすべての世代で、10位以内にランクインしています。東京在住の人気ブロガーが、一時高知へ移住して話題になったのも記憶に新しいところです。
四国の太平洋側、土佐湾のほぼ中央に位置する、高知県の県庁所在地高知市。高知平野の細部に位置し、市の西側は丘陵地、北側は山地となっています。南側は太平洋に面しており、市のほぼ中央に浦戸湾があります。気候は典型的な太平洋側気候といわれ、基本的に温暖です。年間の平均気温は17℃。最低気温の平均は、冬場でも0℃を下回る月はありません。また、日本の県庁所在地のなかではもっとも降水量が多く、しかも日照時間は2位となっています。ダイナミックな気候が特徴だといえるでしょう。
高知市の平均気温(1981~2020年)(資料:気象庁資料を基に筆者作成)
高知市はもともと、土佐藩の城下町として発展しました。四国の中心都市であるとともに、四国の太平洋側での中心都市でもあります。1998年には四国初の中核市となりました。2005年に近隣の鏡村・土佐山村と、2008年に春野町と合併し、市内に都市部と田園地域、山間地域を備えるバランスの取れた街になっています。
高知市の中心部から車で約30分のところにある高知龍馬空港は、東京(羽田・成田)、名古屋、大阪(関空、伊丹)、神戸、福岡の全国主要5都市との路線があります。東京へは約1時間25分、名古屋は約1時間、大阪は約45分、福岡と神戸は約50分の飛行時間です。
高知空港の乗降客数(2019年)(東急エージェンシーHPより筆者作成)
高知市内の交通手段は、交通分担率をみるともっとも多いのは自動車で59%、次いで自転車が18%、徒歩は14%となっています。公共交通機関は鉄道と路面電車、バスがありますが、合わせても3%と、自動車に依存している状況です。
ただし、公共交通機関も市街地に関しては充実しています。まず鉄道は、JR土讃線が市内を東西に走ります。JRはおもに四国や本州などの他県との広域的な行き来に利用されます。次に、市内を路面電車(とさでん交通)が走ります。中心部にある「はりまや橋」を交点として、東西に伊予線と後免線、南北に桟橋線で、全長は25.3kmです。路面電車は、近隣市町との行き来に利用されることが多くあります。
そのほかに、路線バスも多くあります。高知市中心部を核に放射状に路線が形成されています。路線バスはおもに市内での行き来に利用されますが、一部の路線は複数市町村にまたがる遠距離のものもあります。
高知駅の1日平均の乗車人数の推移(四国旅客鉄道株式会社資料を基に筆者作成)
高知市の路線別乗降客数(1日)(資料:国土交通省資料を基に筆者作成)
森・里・海それに人の共生がテーマ
高知市の公示地価は、近年では下落傾向です。特に市内の中心地ほど下落が目立ちます。市内中心地の公示地価が下落するのは、3つの理由があるといわれています。
第1に、家を建てる年代の人口が減っていることです。高知市では高齢化率が高まっていることから、20代~40代の家を建てる中心年代の人口が減少しています。家を建てる人が少ないため、土地が購入されることも少なくなっている状況です。
第2に、公共事業の減少です。公共事業が減少しているため、それにともなって公示地価も下がっています。
第3に、郊外に人が流れていることです。2000年12月にイオンモール高知がオープンしたことにより、イオンモール高知がある郊外に人が流れてしまっています。それにともない、中心地の商店の売り上げが減少し、家を建てようという人も郊外に建てるケースが増えています。
前述のとおり高知市の交通手段は大きく車に依存しています。そのため、車が混み合いやすい中心地よりむしろ郊外の方が便利という事情もあるでしょう。
2020年の公示地価の変動率(高知県HPより筆者作成)
高知市の産業は、農林水産業などの第一次産業が3.1%(全国は4%)、建設業や鉱工業などの第二次産業が16.0%(全国は25%)、商業などの第三次産業が80.9%(全国は71%)の構成です。
商業は、卸売業と小売業とに分類すれば、事業所数でも従業員数でも小売業が全体の7割以上を占めています。そのなかでも特に飲食料品小売業が約25%で最多です。ただし、売上額からみると、小売業は商業全体の約4割程度となっています。工業については、事業所数と従業員数からみると、食料品製造が最多です。出荷額からみた場合には、輸送用機械が最多となります。
高知市は、日照時間が長く降水量も多いことから農業が盛んです。また土地も山間部から海岸部まであるために、多様な農産物が生産されています。山間部ではゆずや梅などの果物の栽培や、棚田を利用した稲作が行われます。平野部では葉野菜など。西部の丘陵地では梨などの栽培や酪農、東部では稲作が行われています。海岸部では施設園芸が盛んに取り組まれていて、グロリオサなどの花卉栽培も盛んです。
高知市の事業者数・従業員数(高知県HPより筆者作成)
高知市では2011年に、20年間の計画として「高知市総合計画」を策定しています。将来の都市像として「森・里・海と人の環(わ) 自由と創造の共生都市 高知」を目指し、以下の6つの「環(わ)」を大綱として掲げながらまちづくりを推進しています。
森・里・海それに人の共生がテーマ
高知市は、転出超過がつづく現状です。転出超過がもっとも多い年代は20~24歳、転出先の地域は関東と近畿が多くなっています。20~24歳は大学進学や就職の時期ですから、東京や大阪の大学や会社に進学・就職するケースが多いということだと考えられます。
その一方、高知市では移住者や移住相談者が増えています。国や高知県が移住者促進に舵を切るなか、高知市も独自の移住促進策として「第2期 高知市移住・定住促進計画」を2020年に5年間の計画として策定しています。計画では、具体的な取組内容としてまず、積極的な情報発信があげられます。移住相談会などを積極的に実施するほか、Webサイト「こうちらいふ」やSNSを通した情報発信をしていくとのことです。
また、移住体験やお試し滞在を充実させることもあげられています。移住ガイドツアーの実施やお試し滞在施設の運営を通し、高知市の良さを認識してもらうというものです。UIJターンの促進として、3世代同居等Uターン支援事業や、地方創生移住支援事業などの補助金支給も行われています。
高知市の転入者数・転出者数・転入超過数の推移(高知市HPより筆者作成)
高知市では、子育て環境の充実にも積極的に取り組んでいます。安心して妊娠・出産できる環境づくりのため、子育て包括支援センター事業やパパ・ママあんしんスタート事業などを行っています。
また、安心して子育てできる環境づくりのため、乳幼児期の支援、就学前の教育・保育の充実にも力を入れています。特色ある教育による地域の活性化にも重要な施策とされています。知・徳・体の充実や保・幼・小の連携が課題として取り組まれています。
高知市内の生活情報(高知市HPより筆者作成)
高知市「子育て安心プラン実施計画」(資料:厚生労働省資料を基に筆者作成)
温暖な気候と海と山などの自然に恵まれ、また移住促進にも積極的に取り組む高知市。全国の「よさこい」が好きな人の高知市への移住を、まちを挙げて応援する「よさこい移住プロジェクト」などもあります。豊かな自然環境で、空き家を借りて住むことも可能な高知市は、地方都市への移住を考えるうえで有力な候補の1つといえるのではないでしょうか。