先日、日本経済新聞が人口10万以上の285市区を対象にテレワークに適した環境が整っているかを分析・採点したところ、1位は滋賀県彦根市だったといいます。過去にこのコラムでも紹介した松江市や甲府市、富山市、宇都宮市、佐賀市、松本市など地方の県庁所在地や中核都市が住宅面積や通信速度、人口当たりの公衆無線LANスポット数、貸しオフィス数など4項目で評価されトップ10に名を連ねました。昨年4月から政令指定都市や中核都市について「移住と暮らし」という視点からさまざまな都市の魅力と実態をお伝えしてきていますが、今回は北海道「函館市」です。地方都市への移住を考える上で参考にしていただければと思います。
「魅力度」で全国2位、「次世代育成環境」で中核都市2位
函館市では、将来にわたって持続可能な西部地区ならではの暮らしと風景を構築していくために2019年に函館市西部地区再整備事業基本方針を策定し、「函館市西部地区再整備事業」を進めていますが、このほど再整備事業の実施主体となるまちづくり会社「はこだて西部まちづくRe-Design」が地域の官民連携により設立されました。同社では元町公園内の道指定有形文化財「旧北海道庁函館支庁庁舎」を利活用するとしていますが、旧庁舎は4月にリニューアルオープした旧函館区公会堂等がある函館観光の中心地に位置するので活性化が期待されています。
さて、恵まれた自然環境をはじめ、異国情緒豊かな街並み、文化的・歴史的資源、快適な生活環境や陸・海・空の交通の要衝であることなど数々の魅力が評価された函館市は、「地域ブランド調査2020」(ブランド総合研究所)で京都市に次ぎ2位に選ばれています。また、「次世代育成環境ランキング2019年度」(NPOエガリテ大手前)でも「母子父子福祉」が1位、「児童保育」が2位「児童福祉」が6位など各分野での高評価により中核都市部門では総合2位。
函館市は,渡島半島の南東部に位置し、東・南・北の三方を太平洋・津軽海峡に囲まれ、札幌、旭川に次ぎ北海道で3番目に大きな人口約25万人の中核都市です。函館山からの眺望が「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で三ツ星を獲得していますが、世界中から500万人の観光客が訪れる国際観光都市にあるベイエリアもロマンあふれる「金森赤レンガ倉庫」や「はこだて明治館」など、レトロモダンな雰囲気をたたえた街並みが魅力です。
3つの海に囲まれた対馬海流の影響を受けるため海洋性気候ですが、道内では比較的降雪量も少なく、穏やかな気候風土の街です。函館市の夏は日照時間も長くて爽やかで、晴れた日が多い地域です。年間の日照時間の合計値は1744.9時間と日照量も多く、年間の降雨量は1188.0mmと平均的です。1991年から2020年までの平均気温は下表のように9.4度で、2020年は10.2度と上がってきています。
函館市は陸・海・空の交通機関が全てそろっている都市で、市内中心部から函館空港まではリムジンバスで約20分です。函館空港から羽田空港までは飛行機で約1時間20分。日本航空、全日空、AIRDOが東京や大阪、札幌、名古屋へ就航しているほか、国際線は台湾に就航しています。陸路は新函館北斗駅から東京駅まで北海道新幹線に乗車すれば約4時間でアクセスできる点も首都圏からの移住者にとってはうれしいポイントです。
函館市内の公共交通機関は、JRと道南いさりび鉄道、路面電車、路線バスが運行しています。観光地で知られる街だけにバスの路線と本数も多く便利です。最も交通手段が充実している函館駅は路線バスや函館空港、新函館北斗駅などを結ぶシャトルバス、ベイエリアや五稜郭、湯の川など観光スポットへも便利な路面電車が運行されており、アクセス手段は最多。函館バスは通常路線以外にも運賃均一の循環バスも運行しています。
2つの重点プロジェクトは「経済再生」と「魅力向上」
2021年3月に国土交通省から発表された北海道の公示地価は、全用途でプラス1.2%、5年連続の上昇。住宅地、商業地ともに前年を上回る上昇率で全国平均も上回りました。しかし、函館市の住宅地は23年連続の下落となる前年比マイナス0.7%なほか、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響もあり、中心部にある商業地は観光客の減少などからマイナス2.4%と4年ぶりの下落。住宅地はアベノミクス以降の8年間で7%の下落となっています。
函館市の事業所数は約1万3千、従業員数は約11万人で、いずれも北海道では3位。同市の産業構造は「卸売業・小売業」、「サービス業」を主体とした第三次産業の比重が極めて高くなっており、平成28年の「経済センサス」によれば、第三次産業が86.4を占めていました。従業員数では、「サービス業」が最も多く、「卸売業・小売業」「製造業」の順です。工業は水産加工製品をはじめとした食料品製造業が全体の出荷額の5割以上を占め、造船などの輸送用機械器具製造業や電子部品やデバイス・電子回路製造業など多様な業種が集積しています。
函館市は2021年度予算編成に当たって、引き続き新型コロナウイルス感染症拡大防止策を最優先課題としながらも人口減少を見据えた財政見通しなども踏まえ、着実に行財政改革を推進し、健全な行財政運営に努めることを基本に、「市民一人ひとりの幸せづくり」と「地域経済の強化」を最大のテーマとして、まちづくりに向けた施策のさらなる推進のほか、各種施策に取り組むとしています。その展開に当たっては、「市民一人ひとりの幸せを大切にします」「函館の経済を支え強化します」「快適で魅力あるまちづくりを進めます」の3項目を柱に編成されています。
また、同市の「函館市総合計画」の中の「函館市基本構想(2017~2026)において、今後の人口減少が避けられない状況下で、市民と行政が一丸となってまちづくりに取り組む必要があると指摘し、将来像の実現に向けて優先的・重点的に取り組むべきプロジェクトとして、課題を克服するための「経済再生」と、優位性をさらに高めるための「魅力向上」に取り組むとしています。企業誘致や新産業の創出などの取組による地域経済の活性化を図るほか、既存の地域資源に磨きをかけるとともに、新たな魅力の発掘・創出でまちの魅力を高めるといいます。
(出典:「函館市総合計画『函館市基本構想(2017~2026)』より」)
医療・福祉や子育て環境も充実し、待機児童数もゼロ
函館市の社会動態は、下表のように2015年以降は1000人前後での転出増で推移しており、2020年も986人の転出増です。移住については、東京・有楽町の北海道ふるさと移住定住推進センター『どさんこ交流テラス』に同市のさまざまな情報を展示した「展示パネル情報ブース」が開設されています。移住相談窓口としては函館市地域交流まちづくりセンター内の「移住サポートセンター」で移住相談から移住後の暮らしのサポートまで対応しています。
移住に関する情報は、まちの魅力や生活に必要な情報がまとめられている「函館暮らしがいど」や「子育て世代向け函館暮らしがいど」「移住者が語る函館暮らし」等の冊子があるほか、Facebookページに『函館市 移住ナビ-IJU Navi-』が開設され、函館の魅力や移住に関する情報を発信。なお、地方創生推進交付金を活用した「UIJターン新規就業支援事業」を実施し、世帯で移住した場合は100万円、単身の場合は60万円の移住支援金が支給されます。
同市は市内13ヵ所に「地域子育て支援拠点事業(子育てサロン)」を開設していますし、屋内に子どもが遊べる大型の遊具を備えた「はこだてキッズプラザ」も運営しています。同プラザには「子育て支援コンシェルジュ」という専門スタッフがおり、子育て相談受付や市が実施する子育て支援制度の案内を行うとともに、同市に移住を予定している人からの相談も受け付けています。なお、子育てに関する情報を掲載した「すくすく手帳」も配布されています。
函館市では、子育てなどにより離職した女性で再就業に意欲のある人へ本人の就業形態の希望を踏まえ、ビジネスマナーやパソコン操作など実践的なビジネススキルを高めるための研修等の女性の再就業支援を行っています。ハローワーク函館マザーズコーナーでは、子育てをしながら働きたい女性に担当制による個別の就職支援を行っており、子ども連れでも安心して相談できるように同コーナーには子ども用のイスやおもちゃなども用意されています。
人口10万人あたりの病院・病床数は全国や北海道を上回るなど医療環境に恵まれている函館市は、夜の急な発熱やけがの時は、函館市夜間急病センターが利用できるほか、子どもの救急相談は北海道小児救急電話相談が受け付けています。救命救急センターは市立函館病院に整備され、2015年からは道南ドクターヘリが運航されています。休日当番日以外の日・時間に受診可能な医療機関については、北海道救急医療・広域災害情報システムで情報を提供しています。
函館市は、森記念財団都市戦略研究所が経済規模や文化度などを都市力として138都市を対象にした「日本の都市特性評価2021」によれば、総合ランクでは73位ですが、文化交流分野では観光目的の訪問者の多さ、文化・歴史的な接触機会などから15位、通勤時間の短さや都市のコンパクトさなどから交通・アクセス分野は19位、さまざまな分野の学術研究機関が集積していることから研究開発分野では28位と高い位置にあります。
函館市では、まちの将来像を「北のクロスロード HAKODATE ~ともに始める 未来を拓く~」と定めていますが、その実現に向け「経済再生プロジェクト」と「魅力向上プロジェクト」という二つの重点プロジェクトを掲げています。新産業の創出や企業立地の促進を図るほか、中心市街地をはじめとした賑わいの創出や地場産業の振興などに取り組み地域経済の回復を図るとともに、快適で魅力あるまちづくりを進める函館市は、さまざまな機関と連携した移住支援体制が構築されていますので、地方都市への移住を考える上で有力な候補地の一つといえるのではないでしょうか。