人×北海道 観光産業を盛り上げていきませんか?Vo.4 ~東北海道の広大な大地、豊かな自然の魅力向上に貢献~
GLOCAL MISSION Times 編集部
2022/08/23 (火) - 11:00

広大で豊かな自然資源を抱く、北海道弟子屈町の地域活性化を担う第3セクター、株式会社弟子屈町振興公社。阿寒摩周国立公園を代表する自然中核地の摩周湖・硫黄山でのレストハウス事業をはじめ、ふるさと納税返礼品の仕入れ、発送事業等を手掛けています。また、阿寒摩周国立公園の摩周エリアの活性化を目指し、2022年7月には摩周湖レストハウスを改修して、施設名称「摩周湖カムイテラス」としてリニューアルオープン。自然中核地の魅力の向上や施設、施設間のアクティビティの整備支援、ネットワーク化、自然を楽しむ滞在型観光の創出などに貢献しています。今回は、同社の代表取締役CEO嶋戸健祐さんに、地域が抱える課題や弟子屈町振興公社の具体的な取り組み、成果についてお話を伺いました。

人の役に立つ仕事をしたい。愛着のある北海道への想い

―はじめに、嶋戸様のご経歴をお伺いできますでしょうか。

北海道帯広市生まれです。学生時代までは北海道と東北を行ったり来たりしていました。人の役に立つ仕事をしたいという想いがあったほか、北海道で長く生活していたこともあり、愛着のある北海道で働くことで地域貢献できると考え、JR北海道に入社しました。

当初は東北海道エリアで、観光列車の受け地の整備やプロモーションなどを担当していましたが、その後、北海道新幹線の開業が徐々に近づいてきたこともあり、東北エリアの旅行会社や交通機関、南北海道の自治体等と発着連携をして、東北から函館までのお客様の流動を作り出す仕事に従事しました。開業直前期には、首都圏のマーケットを担当し、関東エリアの旅行会社や交通機関などと連携、こちらでも北海道新幹線に関わる様々な商品作りに関わりました。

また、北海道新幹線の新車両が導入されるにあたり、話題性・情報発信をかねて列車内のストリートビュー化をグーグル日本法人に提案、公開していただきましたが、私の提案が様々なJR系の全国の列車で車内を撮り始めるきっかけになったようです。このように、JR北海道でのキャリアの半分は、北海道内の観光素材開発や多様なチャンネル・プラットフォームを利用して情報発信をしていくことに携わってきたと思います。

その後、家庭の事情もあり、西日本の交通系企業に転職し、フェリー事業の責任者として事業改善を担当しました。2年かけて色々な改革を行い、収支改善・実績を大きく向上させました。ただ、私のなかでは、仕事と家庭のバランスを取りやすい環境で働きたいという気持ちがありました。

2021年11月、縁あってREVICの面接を受けることになったんです。ちょうど、東北海道の地域活性化の案件があるということで採用されました。私としても、JR北海道時代とはまた別の大きな角度で北海道に貢献できるようなキャリア・ステージがあってもいいなと感じていたタイミングだったので、興味深い仕事だと思い、参画させていただくことにしました。

自然中核地であるがゆえの保護・規制が、観光素材としての磨き上げの課題に。

―「弟子屈町振興公社」にREVICが関与することになった背景について、お伺いできますでしょうか。

環境省からの紹介をきっかけとし、本地域にREVICが関わることになりました。環境省では「国立公園満喫プロジェクト」という自然の保全と利活用の好循環をつくることで国立公園の自然・観光価値の向上、地域の活性化を図る施策を全国の国立公園の中から対象公園を選定し展開していましたが、弟子屈町が所在する阿寒摩周国立公園も対象公園の一つでした。

阿寒摩周国立公園は、阿寒エリアと弟子屈町が大半を占める摩周エリアで構成されていますが、公園内の主要な自然資源の多くは摩周エリア(弟子屈町)に集中しています。しかしながら自然資源豊かな摩周エリアの観光入込客数、宿泊数は長期的に伸び悩んでおり、阿寒エリアと比較しても大きく差がついている状況です。

摩周湖や硫黄山、川湯温泉、屈斜路湖など、摩周エリアの自然資源の魅力を磨き上げていこうという動きはこれまでもあったと思いますが、国立公園内ということもあり様々な規制・課題・各団体との調整などの難しさから、進みにくい状況があったと思います。

image002.jpg (169 KB)

image003.jpg (394 KB)

例えば、レストハウスの滞在環境の整備や、摩周湖の景観を阻害する木々の対策なども、課題としてはあがっていたものの、対応がすすまなかったといった具合です。

このような課題を解決していくため、阿寒摩周国立公園満喫プロジェクトの主要施策の一つとして民間投資を活用した利用拠点の再生が掲げられ、2021年3月に環境省及びREVICのほか、地域の主要な関係主体である北海道、弟子屈町、北洋銀行株式会社、釧路信用金庫及び北海道エアポート株式会社の7者による「阿寒摩周国立公園活性化に向けた摩周エリアの観光資源磨き上げ連携協定」を締結、同年11月に、摩周湖と硫黄山に事業所を持ち、弟子屈町の第3セクターである弟子屈町振興公社への観光遺産産業化ファンドによる投資実行並びに人材派遣として私が同社に経営参画するなど、「官民公金」をつなぎ、自然中核地活性化のための推進体制が段階的に整えられていきました。

投資実行後の取組みの一環として直近では弟子屈町振興公社が運営する摩周湖レストハウスの改修が2022年7月に行われ、「摩周湖カムイテラス」と愛称も新たにリニューアルオープンしました。この施設改修により屋上テラスや室内休憩ラウンジ、自然展示コーナーなどを新設していますが、摩周湖周辺エリアの自然の魅力を多くの方に知っていただけるような機能を施設に持たせる狙いがあります。

image004.jpg (83 KB)

image005.jpg (489 KB)

来年には、硫黄山レストハウスも同じように改修を控えています。まず、摩周湖・硫黄山で中核地活性化を推進し、ここを呼び水として摩周エリア全体に自然の利活用を活発化させ、広げていきたいと思っています。

最終的に、摩周エリアが発展を遂げれば、阿寒エリアとの相乗効果で阿寒摩周国立公園全体としての底上げを図れると考えています。

―観光客は2015年頃から横ばいで、宿泊者が少なく、日帰り客が多いという現状があると伺っています。

平成の序盤から観光客はどんどん減少しています。2015年くらいから訪日外国人旅行者が増えたので、外形的な見え方は横ばいかもしれません。インバウンドの方は北海道の自然に魅力を感じ、摩周エリアも目当ての一つとして来てくれていた感はありますが、国内観光客の場合は違うものと捉えています。

弟子屈町は釧路と網走、北見、知床など東北海道を縦に移動する際の交通の要所です。そのため、例えば摩周湖を訪れる観光客も、道すがら「せっかくだから摩周湖に寄っていこうか」程度の気持ちであって、目的地ではなくなっているからこそ日帰り客が増加していると認識しています。ですので自然を活かし、このエリアを目当てに来てくれる人をどれだけ増やせるかが肝だと思っています。

何度でも訪れたい町「てしかが」を創るための事業会社へ

―弟子屈町振興公社の事業概要について詳しくお聞かせください。

主に摩周湖カムイテラスと硫黄山レストハウスでの物販・飲食事業、そして弟子屈町のふるさと納税の返礼品の仕入れ・発送の委託事業です。image006.jpg (462 KB)

image007.jpg (411 KB)

弟子屈町の第3セクターですので、いかにして地域課題を解決し地域貢献に事業をつなげていくかが重要です。

IMG_1533.jpg (1.07 MB)

摩周湖・硫黄山は摩周エリアの自然観光中核地であるために観光客と地域との最初の接点となります。中核地としての誘客とあわせて、物販・飲食事業を通して満足度を上げて、「また、このエリアに来たい・もっと滞在したい」と思っていただけるゲート・ハブとならなければなりません。

地域の素材をどう活かしてブランディングしていくかなどの地域のアンテナショップのような機能も必要です。

例えば、弟子屈町では、温泉熱を使った「摩周ルビー」というイチゴの栽培をしており、摩周湖カムイテラスでも専用コーナーを設けて取り扱っています。

image009.jpg (466 KB)

ブランドを育てていくのは、並大抵のことではありません。域外販路を拡大しようにも安定して採用されるかわかりませんし、「売れないよ」といわれたら終わりです。長くブランドを育成していく上で、地域内でも核となる販売箇所が必要です。

image010.jpg (581 KB)

ふるさと納税事業では、メロン・じゃがいもなどの発送業務を手掛けてきたノウハウを活かし、地域の商品を仕入れて返礼品の発送をさせていただいています。ふるさと納税は、これを機会に、弟子屈町を知っていただくプロモーションとしての良い機会とも考えています。

―弟子屈町振興公社の現状の課題について、もう少しお聞かせください。

社員高齢化に伴い、人材補充や育成の課題が目立ってきていますね。また、これまでは、摩周湖や硫黄山を訪れるお客様に対してプロダクトアウト的な発想で売ることが会社のスタンスでしたが、今後は、「中核地の自然の利活用を推進し、どう摩周エリアへの誘客につなげていくか」「どう地域のブランドを作っていくか」「市場ニーズを把握し、どのようなサービスとしていくべきか」「企業としてどう利益体質・組織を維持できる体制づくりを行っていくか」などに対応していかなければなりません。つまるところ何度もお客様に来ていただくために、どうしたらいいのかを組織として考えないといけません。

今までの時代背景、前述の規制などもあり、当社の社員も上記のような課題に取り組んできた経験がないので、いろいろなものをクリエイトできる人材が不足しているのが課題です。

自然資源は豊富だが、広大がゆえにまとまりにくい

―他に、お感じになっている地域の課題はありますか?

東北海道も広いですが、弟子屈町も本当に広い地域です。他であれば、市や町の面積はそれほど広くないですから、エリアの「強み・価値」を絞りやすいと思います。

一方、摩周エリアの面積は広大であり、自然の特性がそれぞれ異なります。摩周湖の自然は霧・星などの静寂。硫黄山と川湯温泉は噴気・硫黄泉による癒し・健康、屈斜路湖はアクティブなウォータースポーツなどのイメージです。人々の想いも違うし、それに応じた多様な組織もあります。いいところはたくさんありますが、広すぎて、人にしてもブランドにしてもまとまりにくいように感じます。

「この地域はこれ!」というものを作り難いので、それぞれが独自に展開することになり、スケールメリットが出せず、課題になっていると感じています。これらをまとめていく合意形成の機能として地域DMOとなった摩周湖観光協会が今後を担っていく必要があり、摩周湖・硫黄山という中核地において唯一拠点を置き、事業を展開している弟子屈町振興公社においても、同組織と密接な連携をとっていく必要があります。

―「従業員みんなで考えて意見を出したアイデアを形にしていく」という、嶋戸様のインタビューを拝見しました。

各種取り組みに対して社員がその意義を理解し、腑に落ちるように留意することを怠ると、当然ながら組織のパフォーマンスを発揮できません。現場の方々がやる気を持って取り組めるか。今まで声に出してこなかった、アイデアをどれだけ引き出せるか。これらが、事業をする上で重要ですし、私も大事にしてきたつもりです。

摩周湖カムイテラスの改修については、社員の意見や環境省地域事務所などとの幾度にもわたる協議を交えながら進めてきました。昨年11月のファンド投資のおおよそ半年後には、これまで長らく規制などもあり改善したくともできずにいたことが形になっていくわけですから、社員のモチベーションや地域の機運の高まりを感じます。

―弟子屈町振興公社の今後展開やロードマップについて、ご意見はありますか?

私は同社に経営参画させていただいて半年強ですが、おおよそ2年程度で常駐勤務から外れる予定です。近い将来、地域のまちづくり会社として自走していく必要があり、このため、新しい人材の受け入れも含め、「第二の創業期」という意識を持って取り組みを推進していく体制づくりが必要です。

組織としての継続的な運用をするためには、当然ながら多様なKPI管理や人材育成・補充など、自分たちの現状や課題を分析・改善しながら事業を運営していく必要があります。

私も今年度から地域DMOに登録された摩周湖観光協会の副会長に就任していますが、地域の活性化についても観光協会などとさらなる連携を強化しながら、地域全体のことを考えられる会社に引き上げていくことが、ポイントだと思います。

根底に必要なのは、やはり「地域貢献」への意識

―これからの経営人材の採用も必要になってくると思います。どのようなマインド、スキルを持った方を求められていますか?

まず、事業を運営する上での、プレイヤー・マネジメントスキルはベースとしてもちろんですが、地域活性化を存在意義とする企業であることから、地域のためにどれだけ貢献できるかという意識が重要だと思います。経営人材としてステップアップしてもらうときに、根底に「地域のためにどうあるべきか」という意識がないと、どこかで壁にぶつかってしまう。地域と衝突してしまうと思います。

事業経営と地域経営のバランス感覚が非常に重要です。そうでないと、第3セクターとして成立しません。あまりにも自社のみの利益追求に走っても問題ですが、地域貢献=ボランティアという考えかたでも事業が成立しませんので、運営していく上での利益性を担保としつつも、どうバランスをとっていくかが重要です。

自然を語るためにも、自然をインプット

―弟子屈町に赴任されて、今、どのようなライフスタイルを送られていますか?

このエリアの基幹産業は観光と農業です。観光は、自然を生かした商売ですし、農業も自然ありきです。自分が自然を体験していないと何も語れませんし、感じ取れませんから、空いた時間で自然のある地域に出向いたり、牧場を見学したりとインプットを増やしていくことに留意して生活しています。

アウトドアでは、屈斜路湖のカヌーやグランピング体験に登山、サイクリング。昨年は、E-BIKE(イーバイク)で、屈斜路湖、摩周湖など弟子屈町内約60キロの距離を、ぐるっと一周しました。

「自然って、いいでしょ?」といっても、日本人の場合、それだけで「最高だよね!」とは、なかなかなりにくいですね。アウトドアはその良さを分かりやすく、または増長させて伝える道具・媒体のようなものだと思っています。ここは自然素材が豊富ですから、どのように良さを最大限にわかってもらえる形に落とし込むか、摩周湖観光協会との連携の中で、検討していきたいと考えています。

―アウトドアに関心をもつ若い方が増えていると聞きます。北海道、特に道東は自然豊かですから、様々なコンテンツ形成が可能ですね。

摩周湖カムイテラスは商業施設の一面もありますが、屋上テラスで自然を味わっていただくことに力を入れており、24時間入場できるようにしています。

高台にあるので周囲360度を見渡せ、夜になると満天の星空を眺められます。星空の視認性が高いといわれる弟子屈町の中でも有数の星の観察名所といわれる、本当に素晴らしい場所です。

image011.jpg (498 KB)

ただ、これまでは星空ガイドツアーを実施するときだけしか、お客様はこの体験の機会がないので、継続的な情報発信性・コンテンツ性がありません。そこで、365日、晴れていれば星を見ることができる環境を整備したいと考え、摩周湖カムイテラスを設計しました。

星観察を目当てに摩周エリアに来ていただければ、当然宿泊客も増えます。星空観察が滞在型観光や地域宿泊につながっていけばいいなと思います。

image012.jpg (424 KB)

ここ一週間、屋上デッキの照明の調整をひたすらやっています。星を邪魔しない程度のフットライトの絶妙なバランスが難しいんですよね。

―最後に、読者となる地方に興味を持っている都市部で働くビジネスパーソンにメッセージをお願いします。

最終的には摩周エリア、阿寒摩周国立公園の活性化につなげることが目的の事業ですし、そういった国立公園の活性化を担う役目をおった会社は珍しいと思っています。阿寒摩周国立公園は、環境省が主動する国立公園満喫プロジェクトの中でも、先進的なエリアになりつつあると聞いています。たくさんの有識者が本国立公園に視察にこられていますし、我々がここで取り組んでいくことが、他の国立公園のモデルになりうると考えています。とてもやりがいのある会社、事業ですので、興味のある方は、ぜひ当社に応募いただきたいと思います。

Glocal Mission Jobsこの記事に関連する地方求人

同じカテゴリーの記事

同じエリアの記事

気になるエリアの記事を検索