東京圏、関西圏(大阪市)、中京圏(名古屋市)への人口集中がはじまったのは、年平均で10%もの成長が続いた高度経済成長期(1955年〜1973年)のことです。この人口集中は1970年代にいったん落ち着きますが、その後は東京都及び東京圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)への人口一極集中が続いています。現在では日本の人口の約3割が東京に集まっているという不均衡さで、地方は少子高齢化と過疎化にあえいでいます。なぜ人口は東京ばかりに集まるのでしょうか?また地方の過疎化の他には、どのようなデメリットがあるのでしょうか?今回は東京への人口一極集中の理由とそのデメリットについて考えてみました。
コロナ後に復活した東京都への転入超過
新型コロナ感染症の感染拡大は、東京都への人口一極集中を緩和させました。この感染拡大を機に皆が密を避け、地方移住のメリットや地方で暮らす事への安心感を実感したと言っても過言ではないでしょう。自治体への転入と転出の差を表す言葉に「転入超過」と「転出超過」というものがあります。転入超過は転出より転入が多く、人口が増えている状態。逆に転出超過は、転入より転出が多く人口が減っている状態です。東京都はバブル崩壊直後の一時期を除いて人口流入が続き、ほぼ常に転入超過の状態にありました。
新型コロナ感染症の感染が拡大しはじめた2019年、東京への転入超過数は2018年の79,844人から15,000人以上減少、2020年には31,125人に、2021年には5,433人となりました。転入超過の状態は変わらないものの、その数はピーク時の2018年に比べて9割以上の減少となったのです。ところが新型コロナ感染症が収束しはじめた2022年には、転入超過数は再び38,023人まで増加、2023年にはさらに増えることが予測されています。
人もさりながら、企業の本社機能も東京に一極集中
実は東京に一極集中しているのは人口だけではありません。企業の本社機能も東京に一極集中しているのです。たとえば中京圏と呼ばれる愛知県の2万数千社、関西圏である大阪府の3万数千社に対して、東京都には6万社を超える企業の本社機能が集中しています。取引先がある場所の近くに事業所を開設するのは、至極合理的なことです。オンラインで会議や面談ができる時代になったとはいえ、直接面談する意味は事業的にはまだまだ大きいのです。取引先が東京にあれば自社の事業所も東京に開設、またその取引先も東京に事業所を開設、事業所が開設されれば自然と社員も集まる……と、スパイラル的にこの状況は加速度を増していきます。このような状況から東京への人口一極集中を改善するには、雇用を生み出す企業が意識的に地方に分散していく他は解決策が無いように思えます。
●パソナの淡路島移転
人材派遣大手のパソナグループは、2020年に本社機能の一部を淡路島に移転すると発表、現在は900人を超える社員が淡路島に異動しており、2024年の6月までには全社員約1800のうち1200人を淡路島に異動させると発表しています。淡路島では仕事はオンライン中心で行われています。実際に異動した社員は「ストレスから解放された職場環境と、自然や食材にめぐまれた住環境に満足している」と話しています。パソナは思いきった改革で、従業員のワークライフバランスを実現しているのです。また以前から淡路島(兵庫県淡路市)では企業誘致を市を挙げて進めていましたが、パソナが移転を開始した2020年からは2年連続で転入超過となっています。このような地方自治体が日本全国に増えれば、都市部への人口一極集中は必ず緩和の方向へ進むことでしょう。
一極集中のデメリット
都市部への人口一極集中は、地方の少子高齢化や過疎化につながりますが、他にはどのようなデメリットがあるのでしょうか?
◯ 地価高騰
一極集中には競争原理が働き、地価や家賃の高騰を招きます。これらの固定費が高騰すれば、そのコストは企業の販売する商品やサービスに転嫁されることとなり、結局我々消費者が負担を負うことになります。また無意味なコストの上昇や人件費の高騰は、海外との競争力低下にもつながるでしょう。
◯ 交通渋滞
狭い場所に住む人たちが増えれば、交通渋滞が日常的に起こるようになります。また公共交通機関の混雑も増すこととなり、ストレスの要因になります。
◯ 大気汚染、ヒートアイランド現象
電気自動車やハイブリッド車の普及は進んでいますが、まだまだほとんどの車は二酸化炭素を排出しています。これらは大気汚染の原因になり、エアコンなどの熱源の増加によりヒートアイランド現象にも拍車がかかります。
◯ 災害発生時の被害
一カ所に企業や人が集中することで一番懸念されるのが、災害時の被害の大きさです。ご存じのように日本は地震大国で、数年に一度は地震による大きな災害が発生しています。過去に発生した災害と同規模の災害が東京で起きれば、その被害の大きさは想像に難くありません。人の被害はもちろん、経済的損失も莫大なものになるでしょう。
まとめ
以前は広大な土地が必要だった企業の工場も地方から海外に移転し、地方では雇用そのものが無くなってきています。また企業の人手不足も深刻化しており、優秀な人材の採用には都市圏が向いていることも確かです。ただ、働く環境の問題はこれらとはまったく別の問題です。働く人のワークライフバランスを考えれば、パソナのような決断も必要なはずです。
<参考>
新型コロナでも止められぬ東京一極集中を生かす政策を
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/23457
東京への一極集中が起こる要因と問題とは
https://mansionlibrary.jp/article/16574/#:~:text=%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E3%82%84%E5%B0%B1%E8%81%B7%E5%85%88%E3%81%8C,%E3%81%84%E3%82%8B%E3%81%A8%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
パソナの淡路島移転から2年 見えてきた成果と宿題
https://www.sankei.com/article/20221029-6BYYR4MBXNN7RJYDKVKCZ3SE6A/
一極集中とは? 東京への人と企業の偏りにコロナ禍がもたらした影響
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00081/121400486/#:~:text=%E4%B8%80%E6%96%B9%E3%80%81%E4%B8%80%E6%A5%B5%E9%9B%86%E4%B8%AD%E3%81%AB,%E6%8B%A1%E5%A4%A7%E3%82%82%E6%87%B8%E5%BF%B5%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%80%82