地方での暮らしも仕事も地域へのリスペクトが大前提~地方の暮らしと仕事のリアル
REVIC 伊原晃さん
GLOCAL MISSION Times 編集部
2022/10/19 (水) - 12:00

REVICから福井県小浜市の観光活性化のため株式会社まちづくり小浜に派遣され、役員に就任。家族との初めての小浜での暮らしは想定以上に素晴らしいものだったようです。地域へのリスペクトがあれば、都会で磨いた知識・スキルは必ず役に立つという伊原様に、地方での暮らしと仕事のリアルをお伺いしました。

■2017年REVICに入社され、まちづくり小浜の役員として派遣された経緯をお聞かせください。 

私がREVICに入社したときには、既にふくい観光活性化ファンドが立ち上がっており、投資や役員派遣も行っていました。前任の担当者からの引継ぎで、私が後任として入りました。

■まちづくり小浜での事業概要を教えていただけますでしょうか。 

私が参画した当時は、小浜市の第三セクターとして、道の駅運営事業を中心に、レストラン運営や小浜市から委託費(公益事業)をいただきながらツアー企画や観光PRなどを行っていました。

また、収益の柱を増やすために、古民家を利用した宿泊業(一棟貸しの「小浜町家ステイ」)も始めました。小浜市は自然豊かで地下水が湧き出て水は綺麗、食べ物も美味しいんです。千年以上続く寺社仏閣や明治・大正時代の古い町並みの町家が多く残る、日本の縮図のような本当に素晴らしいところです。

小浜町屋ステイは、町並みを守りながらそれを観光収益源に繋げられないかということで、小浜市から補助金をいただきながらスモールスタートしました。

数値管理をしっかり行い事業モデルを作ることに注力し、2棟目はクラウドファンディングを利用して資金を集め、3棟目以降は文化庁などからの補助金を活用しレバレッジをかけながら店舗数を増やしていきました。私が直接携わったのは、4、5棟目くらいまでですが、今は7棟になり、設えもリニューアルしていいものになっています。

まちづくり小浜では月に1回経営会議を開催していたのですが、小浜市の副市長さんや産業部長さんたちにも出席していただき、しっかり経営の議論をしているところを見ていただくなど、常に情報交換ができる体制をとっていましたし、元々小浜市もまちづくりに積極的でしたので、小浜市とは常に連携しながらこのような事業開発を進めさせていただきました。

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古民家宿 つだ蔵寝室

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古民家宿 つだ蔵 附属屋リビング

■小浜市には何年いらっしゃったんでしょうか?

3年半ほどいました。最初の半年間は一人暮らし。その後は妻と子供が引っ越してきまして、3年ほど家を借りて住みました。

■小浜市に住むことに奥様はどのような反応でしたか?

もともと、夫婦ともにずっと東京で暮らしていくイメージはありませんでした。ただ、妻は小学校まで富山で、次に福岡と日本海側メインで暮らしてきて、せっかく太平洋側に来たのに…という小さな愚痴はありましたが。妻から大きな反対はありませんでしたが、知り合いもおらず、子どももまだ小さかったので、引越し後は慣れない土地での生活に戸惑っていたところはありました。

■小浜市に住む前と後でギャップはありましたか?

妻には初めての土地で、それも日本海側の冬の気候の頃に引っ越したので、寒くて全体的に暗かったからか、最初は小浜の良さがあまり実感出来ていないようでした。春の気候になってとても明るく美しい景色になり、また近所の方々との交流も増えてくると「こんな素敵なところだったんだ!」と言ってくれるようになりました。

小浜市は人口3万人ですが、スーパーやドラッグストアはいくつもありますし便利なところですよ。公共交通機関が弱く、例えば大阪に出るまで時間がかかるといったことはありますが、暮らす上で大きな違和感は全くなかったですね。もともと通販もよく使いますし。都会的なものを楽しみたかったら、車で下道を2時間も走れば京都市内ですしね。

福井県の若狭地方は教育熱心だという背景もあり、子どもたちはみんな挨拶してくれるし、教育環境はとても良かったです。子どもはモンテッソーリ教育にも力を入れているの幼稚園に通っていたのですが、やる気と愛がいっぱいの素晴らしいところでした。今でも仲良くしている親御さんたちがいて、またいつか小浜に戻りたいくらいです。

広い家を借りていたので、積極的に東京や徳島の友人を招いて、泊まってもらっていました。海産物は特に美味しく、友人たちにも評判でした。例えば、穴子の醤油干しは身が厚くてかば焼きのような美味しさで、どの方に差し上げても感動していただける隠れた逸品だと思っています。自然が豊かなのでコロナ禍でも、お弁当を持って海沿いで食事をするなどして、ストレスをほとんど感じない生活でした。


■新しい土地に移住する際、気をつけていたことはありますか?

近所の方との会合には積極的に参加するようにしていました。仕事柄、レストランの方や漁師さんたちと話す機会が多かったので、地域に溶け込みやすかったのだと思います。

私の仕事のミッションは、会社経営をより良くし、新たな事業開発をして地域の観光収入を増やすことでしたが、東京のペースでそれをやってしまうと、人は動いてくれませんし、うまくいかないものです。

地域に対する愛や、地域が頑張ってきたことをリスペクトするスタンスが大切で、それができていないと不満ばかりになるかもしれません。

地域に一緒に参加させていただいている気持ちと感謝を忘れないことが大切だと思います。

■観光関連のお仕事は、土日祝日や仕事時間外での活動が多いように思うのですが。

土日のイベントに参加することはありましたが毎週ではありません。それに、私は経営陣が前面に出るのは良くないと思っていました。経営陣は「道しるべ」は示すけれど、従業員の方々に頑張って考えていただき、地域のことをもっとよく知って、お客さんに喜んでもらう醍醐味を味わっていただく。私が残せるものは、そういった成功体験だろうと思っていました。

■徳島に移られて2年経ったぐらいですね。徳島ではどのような業務をなさっているのでしょうか。

今は、REVICから派遣され、産学連携キャピタルという徳島大学発のベンチャーを支援するファンド運営会社に常駐しています。大学の先生方の技術をベンチャー化するご支援と投資、その後は必要に応じてハンズオン支援を行っています。


■小浜から徳島に移られていかがですか?

私から見ると徳島は都会で、とても便利で何でも選べるところです。大型の商業施設も車で10分で行けますしね。でもその分感動は薄い印象です。小浜は飲食店はあまり多くは選べないですが、料理人のこだわりや素材のレベルが高く、人にお勧めしたいお店も割合としては多かったと思います。比較すると、徳島は便利でバランスの取れた生活、小浜は地域で暮らしている!という感じですが、あまりに感覚的すぎて伝わらないかもしれませんね。ただ、このように思うのは徳島では観光をテーマとした仕事をしていないからかもしれません。

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■地方での教育環境を不安視する声がありますが、どのように思われますか?

親の教育方針次第だと思っています。私たち夫婦の価値観では、特別に高等な教育を施す必要はありませんが、足を引っ張られることが多いのは問題だと考えておりまして、ある程度、教育に興味があるような方々が集まる場所であれば、それで良いと思っています。

徳島は自然と触れ合う教育が盛んですから、私も子供たちがもう少し大きくなったら、そういったプログラムにたくさん参加させようと思っています。また、徳島にはいい公園が多いですし、車で30分以内で気軽に自然を楽しめ、1時間かけて行けば、本格的な自然と触れ合えます。

今ではオンライン英会話などもありますから、私たちとしては地域の教育に関して大きな課題を感じていません。

■地方で暮らすためにはどのような意識が必要でしょうか。

仕事であれ暮らしであれ、外からお邪魔させてもらうのですから、地域の方々が大切にされていることを理解する必要があると思っています。その為にもたくさんお話を聞いて、多くの体験をさせていただくことが必要かと思います。

さらに、私のように観光まちづくり会社で働くような場合には、地域の方々がいかにやる気をもって働いていただけるか、を考える必要があると思います。意外と従業員の方が住んでいる地域のいいところを知らないこともあるので、むしろこちらが発見した地域の魅力をお伝えしていって、もっと住んでいる地域を好きになってもらい、それを観光客の方に伝えてもらう、そのような流れを作ることも重要だと思っています。地域のお仕事では、そういった情理の世界と、合理の世界を組み合わせながら課題を解決していく必要があります。都会の合理の世界の押し付けだけでは絶対に動きません。

地域には様々な課題がありますが、都会で鍛えてきた経験と知識があれば解決できることがたくさんあると思います。地域の方と苦労を共にしながら、ときに喧嘩をしながら取り組み、徐々に地域が活性化していく。そういった泥臭いこと楽しいと思い、挫けずに続けることが大切なのではないでしょうか。

■地方移住に関心を持たれている方に向けて、メッセージはございますか? 

地方は自然や人との距離が近く、そういったことが好きな方は、暮らしを楽しめると思います。また、その地域へのリスペクトが前提になるとは思いますが、都会で鍛えられたスキルは必ず役に立つはずです。都会では、優秀な方が多く集まり、ともすれば代替可能な「部品」になってしまいがちですが、地域では「人」として仕事ができる気がします。そういった暮らしや働き方に興味がある方は、ぜひ試してみていただきたいと思っています。


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