大学との共同可能性 /「複業モデル地区」への挑戦・第4回
石川 貴志
2017/12/19 (火) - 08:00

新しいワークスタイルやライフスタイルを実現する環境を産官学連携で整備し、「主体的市民」を呼び込む「複業モデル地区」構想。過去の連載で、このプロジェクトを地方創生の新しい雛型として広島県福山市で実現したいと考えるに至った経緯と持論を述べました。
今回の記事では、「福山駅前再生協議会」の座長代理であり、福山市立大学の渡邉一成教授に、「複業モデル地区」構想における大学との共同可能性について、ご意見をお伺いしたいと思います。渡邉さんは、都市・地域計画や都市交通政策を専門分野に、将来の都市構造や都市経営を研究され、福山市や広島市の都市計画に関する審議会委員なども数多く歴任されています。
地方再生や地域連携に対する考えについても伺っていきます。

石川 貴志

一般社団法人Work Design Lab代表理事/複業家

渡邉 一成

福山市立大学 都市経営学部 都市経営学科 教授/「福山駅前再生協議会」 座長代理

〈第1回〉「複業モデル地域」構想のきっかけ

〈第2回〉「産官学連携で創りだす、新しいワークスタイル」

〈第3回〉リノベーションまちづくりという切り口から広がる複業ムーブメント

〈第5回〉公の場での認知、地域連携を模索

石川氏:「福山駅前再生協議会」では駅前の賑わいと活力の再生に向けた議論が活発に交わされていますが、新しいまちづくりには「主体的市民」の存在が不可欠ではないかと考えています。また、私自身の様々な社外活動を通じて、新しいワークスタイルやライフスタイルを実現する環境(「複業モデル地区」)を産官学連携で創りたいと考えており、その実証の場として福山市を考えています。
本日は、「複業モデル地区」構想における大学連携に関する持論をお話させていただき、専門的な見地から渡邉先生のご意見をお伺いしたいと思います。

地域研究所(仮)を設立し、社会人研究員を採用

石川氏:福山市に「主体的市民」を呼び込むための方策の一つとして、大学主体で、「地域研究所(仮)を設立し、Uターン・Iターンする人を期間限定で研究員(仮)として採用」できないかと考えています。採用した研究員には、地域イノベーションマネージャーなどビジネス的な肩書きを与える形で、業を起こす個人を大学がサポートする。一方個人は、大学の名刺を持つことで信頼性が保証され、社会活動や起業がしやすくなります。Work Design Labのメンバーに、フリーランスで活動しながら、慶應義塾大学大学院に研究員としても所属する者がいます。個人で活動する場合、大学の研究員として活動していることで、社会に対する信頼性が高まるという実態があります。また、業を起こし、手が足りなくなった時には、大学生を雇用してもらうことも可能です。学生にとっては、一時的なインターンシップよりも力強い経験となり、就職活動にも役立ちます。
一方、東京側にも研究員を配置することを考えています。東京で働く福山市出身のビジネスパーソンを対象とし、福山市に仕事を増やす活動を行うことが研究員のミッションです。加えて、そんな研究員の後進者を育成するというミッションもあります。
地域研究所の設立と運用事例としては、釧路公立大学地域経済研究センターの「共同研究プロジェクト」があります。地元の行政関係者や民間人を客員研究員として導入し、地域と連携した好例ではないかと思います。
また、慶應義塾大学SFC研究所の取り組みも有名です。民間企業や研究所、官公庁・地方自治体などに所属する方を上席所員・所員として受入れ、協働で研究を推進している事例として挙げられます。

福山出身大学生を研究員として採用し、Uターンの流れをつくる

東京の大学には福山出身の学生が多くいます。東京に住んでいながらも、福山市の企業を応援する研究員になれるという文脈で、大学生を巻き込むことも考えています。東京都文京区に、公益財団法人誠之舎という学生寮があります。福山市やその周辺地域出身者を対象とする学生寮ですが、誠之舎の学生を研究員として採用し、Uターンの流れをつくることにつなげたい。
誠之舎には現在、約30名の学生が居住し、8割が東大生と聞いています。寮長さんは学生たちに積極的に地域活動に参加させたいと考えている方です。今後、誠之舎と連携することも継続検討したいと考えています。

高校と大学の接続を視野に、高校生を研究員として採用

また、地域研究所(仮)の研究員に、高校生も所属できないかと考えています。慶應義塾大学SFC研究所のプロジェクトで、高校生を一部採用していると聞いているのですが、高校生も地域に向けて新しいチャレンジをしたいようであれば、同じように研究員として採用してもいいのではないかと思います。
18歳の人口が減少期に入り、大学進学者が減っていく2018年問題がありますが、特に地方の大学においては、今後、財務状況が悪くなっていくことも考えられます。研究員として高校生と大学を接続させると、入学志願者を増やすという意味において、大学にとってもメリットがあるのではないでしょうか。
今後、福山市内の高校関係者の方とも実現の可能性について、ディスカッションしたいと思っています。

このように、地域研究所(仮)を核に、多様な人材リソースを地域全体で活用できると、人材のシェアリングエコノミーが形成されるという好循環が生まれます。

大学の評価軸を就職力から創業力へ

大学は学生の就職力が問われると思うのですが、就職力とは、企業があるところに移動する力も含まれていると考えています。そうした場合、地方の大学が抱えている問題として、就職力を高めれば高めるほど、学生は東京の企業に就職していく傾向が強いのではないでしょうか。
広島県の担当者は地元に若者が残って欲しいと言っていますが、大学の評価軸が就職力が中心になっている時点で、地元から出ることを結果的に後押ししてしまっているようにも思います。評価軸を創業力に変えることによって、学生の行動も変わっていくと思います。
創業力に評価軸を変えると、起業したい学生を大学を中心とした地域全体でサポートすることができます。その結果、将来的に地元での起業につながり、新たな雇用を生み出せるのではないでしょうか。

福山市立大学は福山市役所の監督下となるので、「今後、福山市立大学に求めるのは、学生の創業力である」ということを市役所に推進してもらえないかと期待しています。

若者の定着化に向け、地域で何をすべきか

渡邉氏:創業やクリエイティブなことができる環境が整備されるとその魅力で学生も地元に残るだろうし、外から見ても人を惹きつけるのではないでしょうか。そのような意味で、石川さんと考えは同じです。
福山市立大学は2017年4月から学長が変わったのですが、その学長がまさしく地域研究所のようなものを創設したいと考えておられるようです。私は今、大学の教育研究交流センターやキャリアデザインセンターなど、幾つかセンター長を務めています。公開講座を行っている教育研究交流センターは、地域づくりなど大学の外との縁結びをする役割があります。キャリアデザインセンターは、学生を外に結びつけることがミッション。地域連携フェローも務めており、そこでは地域とどう付き合うかを考えるように言われている状況です。
私はもともと東京で国土交通省系の財団法人に勤め、まちづくりや都市計画を専門としていました。縁あって福山に赴任したのですが、それまで地方都市に住んだことがありませんでした。こちらに来て、こんなに魅力にあふれる福山からなぜ学生が出ていってしまうのか。これはやり方がおかしいのではないかと感じていました。

大学が求められているミッションもあり、前市長がつくられた課題、駅前再生に向けた市の取り組みは大変意義があると感じています。私も「福山駅前再生協議会」での委員として役目を果たしたいと思います。
また一方で、福山と周辺の市町が一緒になって元気になればという想いもあります。岡山と広島の間にある福山は、6市2町からなる備後圏域の玄関口。周りも元気にするには、福山が元気にならないといけないと思っています。人口減少を食い止め、外から人を呼び込める、人口を増やすような施策をやりたいと考えています。
では、どうしたらよいのか。まさに石川さんのお話につながると思いました。そもそも働くってどういう意味なのか。若者のワクワク感はどうやったら創出できるのか。北九州市立大学では地域共生教育センター(421Lab.)ができて、学生が活き活きとしています。同じようなことが福山でできれば、学生は必ず残ってくれるはず。福山市立大学の学生の市内就職率が5割になるとハッピーだと思っています。

石川氏:まちに手触り感があると学生も興味を持つのではないでしょうか。以前関わったあるプロジェクトで、大人の元気のなさに違和感を持っている学生が多いのではないかと感じたことがあります。やはり、大人が活き活きと働いている姿を見せないと、未来に夢を描けない。子どもたちの多大なポテンシャルを失わせてしまうのはもったいないと思いました。
私は、第一子の誕生をきっかけに価値観が変化し、長期目線になりました。私の子どもが社会に出る時に、今の大学生が上司になるのですが、大学生を活き活きとした社会人にすることが、次の世代につながっていく。自分たちの子どもたちに影響するので、Work Design Labをはじめとする自身の活動のミッションだと考えています。
また、同じような想いを持つ30代・40代のパパたちがいるのですが、会社の中で経営層に近づく時期でもあり、なかなか時間をつくるのが大変です。しかし、パパの会など旗を上げると、手伝うという人が出てきます。そういう人は、会社のリソースを使って企画書を作成してくれて心強い。そんな志のある大人をうまく巻き込みつつ、学生とつなげることができればと思っています。

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渡邉氏:地域研究所(仮)の設立については、福山市立大学の監督者は市長であるので、可能性はあると思います。学校法人ではないため、市としては動かしやすいのではないでしょうか。

石川氏:「福山駅前再生協議会」の清水座長にも、協議会の中で実際にプロジェクトを動かしていこうと仰っていただいています。市役所が学生を地元にとどめることにも注力するのであれば、業を起こす個人や創業力も協議会の項目の一つに入れたらどうかと思っています。市としてもメリットがあるのではないでしょうか。

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地域研究所(仮)を核に、どのように連携するか

渡邉氏:地域研究所(仮)は、学生主体の活動にすると、いずれ立ちゆかなくなると思います。大学のサークルは大学の予算で活動していますが、営利目的の場合は予算が下りません。創業活動は営利目的となるため、活動が困難になることも考えられます。この問題を解決するには、創業活動を支援する補助金を市が創設してくれたらとも思います。民間企業が基金を創設してくれてもいいのですが。

石川氏:ボランティアの場合、活動すればするほど「お金や時間」がなくなるというジレンマがあります。持続可能性も高くありません。そこで、地域研究所(仮)やワーキンググループをつくり、企業をまきこめないかとも思っています。企業にとっては、人材育成や新規事業開発の機会としてもらう一方で、地域研究所にとっては、協賛という形で協力を得る。企業に参画してもらう場合、その場がコミュニティだと会社への説明が弱くなります。「福山駅前再生協議会」のようなスキームがあると、予算を持っている企業担当者も会社側に説明がしやいのではないかと考えています。

渡邉氏:「福山駅前再生協議会」では、モノを最初に議論した方がいいと考えています。ソフトだけで本当の意味での賑やかなまちづくりは難しい。その象徴として、駅前というのは凄くよい。手法は再開発でもなんでもよいのですが、ハードとソフトがセットで動かないとダメだと思っています。そして、ハードよりも賑わいをどうつくるかを考えた方がいい。それをどうシンボライズしていくか。ハードとソフトがセットでまちづくりができれば、若者が残る町になれるのではないでしょうか。

人が集まる、地域の交流拠点を

石川氏:箱モノをどんどん建てる必要はないですが、人が集まる拠点づくりも大事だと考えています。私は、地方出張の度にビジネスホテルに宿泊していますが、ただ泊まるだけではもったいないと感じています。出張する人が宿泊でき、地元の人と交流できるような場所があれば利用したいと思うことがあります。 例えば、1階はCAFEやバル、2階はコワーキングスペース、3階は個室で宿泊や仕事ができるような拠点があれば、福山周辺に訪問するビジネスパーソンも利用し、いろいろな人たちがつながれるのではないでしょうか。そんな拠点が駅前にあると、福山は交通の便が圧倒的に有利なので、多くの人を呼び込めると思っています。

渡邉氏:福山駅前にあるコワーキングスペース「Ha-Lappa(はらっぱ)」の最上階がホテルになっていて、ユースホステルの大人版のイメージですね。オープンスペースで夜もお酒を飲みながら交流できる拠点は、私としてもぜひ欲しいと思います。

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様々なプロジェクトと連携し、連発で動かしていく

石川氏:清水先生からも「拠点があると変わるので、ぜひやってみたら」と言われました。交流拠点は必要だと思いますので、またご相談させていただければと思います。
キーワードとして、地域研究所(仮)や駅前再生とうまく連携できるかもしれません。一方で、働き方や地域との連携など、渡邊先生の活動を通じて、福山市ならこう動けばいいということはありますか?

渡邉氏:いろいろな動かし方があり、一つの方法だけにしない方がいいのではないでしょうか。福山で何がどう動いているのかすべてが見えている訳ではないですが、例えば、ベンチャービジネスからの仕掛け方もあると思います。また、市の様々な政策や、福山ビジネスサポートセンター「Fuku-Biz(フクビズ)」と連携する方法もあるのではないかと思います。
花火大会に例えれば、単発ではなく、一つひとつの花火を束ねて打ち上げる。そういうものが求められているように思います。

石川氏:福山市は行政も積極的に動いているの、モデルができると、他の地域に展開できると考えています。地域研究所(仮)については福山市立大学を中心に構想を推進できないかと考えており、関わる企業にとってもメリットを出せると感じています。今後、渡邊先生の活動になんらか合流するなど、関わらせていただければと思います。

〈第1回〉「複業モデル地域」構想のきっかけ

〈第2回〉「産官学連携で創りだす、新しいワークスタイル」

〈第3回〉リノベーションまちづくりという切り口から広がる複業ムーブメント

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