3月に発表された「東京都民が移住・二拠点居住したいエリアランキング調査」(リクルート住まいカンパニー)で、移住・二拠点居住に対して都民の約36%が「関心があり」、コロナウイルス感染拡大で「より関心が高まった」と答えた人は52%と半数を超え、「自然豊かな環境で暮らしたい」という人が56%で最も多かったといいます。昨年4月から政令指定都市や中核都市について「移住と暮らし」という視点からさまざまな都市の魅力と実態をお伝えしていますが、今回は佐賀県「佐賀市」です。地方都市への移住を考える上で参考にしていただければと思います。
佐賀県はセミナー参加者の移住希望地ランク全国3位
佐賀市では、コロナ禍で地方移住への関心が高まっていることから、10代後半から30代前半の子育て世代を主なターゲットに、市の魅力を発信して首都圏からの移住促進につなげるため、架空の部署「佐賀市なんもな課」のプロモーション動画を市プロモーション室のサイトやユーチューブで公開しています。1本約1分30秒前後で、「日常」「グルメ」「子育て」「仕事」がテーマの4話構成で、移住支援制度や子育て環境などを紹介しています。
(出典:佐賀市)
さて、佐賀市を抱える佐賀県は2019年のふるさと回帰支援センターの「移住希望地域ランキング」で8位でしたが、2020年にはセミナー参加者で3位でした。全国のビジネスパーソンを対象に「快適な暮らし」や「生活の利便性」など8分野で調査した日経BP総合研究所の「住みよい街2020」では都道府県庁所在地で15位。野村総合研究所の国内100都市への調査では、「都市の暮らしやすさ」1位、「子育てしながら働ける環境がある」3位(2017年)に選ばれています。
2005年10月に1市3町1村が合併して誕生した佐賀市は、2007年にも3町を合併していますが、人口約23万人の県庁所在地で県の中心的エリアです。脊振山系の山ろく部の山林や清流、歴史遺産や史跡、筑後川にかかる昇開橋や佐賀平野に広がるクリークや田園風景、有明海など素晴らしい環境に恵まれているほか、2015年7月には「三重津海軍所跡」が、世界文化遺産に登録されました。公園など子どもの遊び場も豊富で、のびのびと子育てが可能な街です。
佐賀市は夏に雨が多いものの、気候は比較的温和です。冬季は降水量が少ないですが曇天の日が多く、10度以下と寒くなる特徴があります。1981年から2010年までの平均気温は下表のように16.5度で、2020年は17.5度と上がってきています。年間の日照時間の合計値は1969.0時間で、降水量は6月と7月に300ミリを超えて年間の3分の1を占めており、年間の降水量は1870.1mm。
有明海の干拓地にある国際空港の「佐賀空港」へはJR佐賀駅からリムジンバスで35分ほどです。国内線は全日空が羽田、春秋航空が成田に運航しており、羽田までは約1時間40分。国際線は上海、西安やソウル、台北へ就航していますが、いずれも現在は運休中です。陸路は、九州新幹線も運行していますが、隣接した福岡県は通勤・通学圏ということで、佐賀~博多間は特急電車でも約40分の近さです。
佐賀市内の公共交通機関はJR九州と公共バスは佐賀市営バス、西鉄バス、祐徳バスなどがあるほか、富士町ではコミュニティバスも走っています。大和町の一部区域では、事前の予約に応じて予約区間を乗り合いで利用できるデマンドタクシー「べんりカー松梅号」を運行し、公共交通の充実を図っています。軽自動車の普及台数が全国2位という佐賀県ですが、中心地以外に居住する際にはマイカーは必要になるでしょう。
10年後の目指す将来像「豊かな自然とこどもの笑顔が輝くまち」
2021年3月に国土交通省から発表された佐賀県の公示地価は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、上昇基調が弱まっています。商業地は横ばいだったものの、住宅地は前年比0.3%で3年連続の上昇でした。なお、工業地は5年連続の上昇となりました。佐賀市の商業地は福岡市圏へのアクセスの良さからJR佐賀駅前のオフィス街には投資目的の需要が根強いといいますし、通勤圏にも入ることから宅地需要が強いようです。
また、佐賀市の事業所数は約1万2千、従業員数は約11万人で、いずれも佐賀県ではトップ、九州では9位です。同市の総生産額で約8割を占める第三次産業を中心とした産業構造になっており、「製造業」や「不動産業」「保健衛生」「卸・小売業」が上位に名を連ねています。事業所数では、「卸・小売業」が約25%と最も多く、「宿泊業・飲食サービス業」が13.7%で続き、「医療・福祉」、「建設業」などの順です。
佐賀市では2007年度からの「第1次佐賀市総合計画」に基づき、合併後の新しい「佐賀市」のまちづくりを総合的かつ計画的に進めてきましたが、計画の策定から8年が経過し、新たな課題への対応が求められるなかで、今後のまちづくりを進めるための指針として、2015年に「第2次佐賀市総合計画」を策定。10年後の目指す将来像としては、「豊かな自然とこどもの笑顔が輝くまち さが」が掲げられ、下表のような7つの基本方向と36の施策が定められました。
まちづくりの長期的な展望を示し、5つの基本理念を踏まえた10年後の同市がめざす将来像の実現に向け、7つの政策展開の基本方向が定められました。その中で、効率的で持続可能な都市経営の観点を踏まえながら、自然と都市が調和した計画的な土地利用を推進していくため、同じ方向性を持った土地利用のまとまりを以下の図のように4つの基本ゾーン(都市ゾーン、田園集落ゾーン、山村集落ゾーン、有明海沿岸ゾーン)に区分し、それぞれの土地利用を推進するとともに、「拠点」と「都市軸」を設定し、計画的な都市空間の形成を図るとしています。
(出典:佐賀市「第2次佐賀市総合計画」より転載)
医療や安心して子育てができる移住者にも嬉しい環境
佐賀市は、2014年まで社会減の状態が続いていましたが、2015年及び2017年に社会動態が増加に転じ、2018年からは再び転出超過となっています。近年、IT企業が続々と進出するなか、移住者も増えている同市では、HPに移住・定住に関する支援情報や住居・就労情報などを掲載。市が開催する移住相談会や講演会の情報も随時更新されているほか、Facebookの「さがぐらしはじめませんか」のページでも定住情報を発信しています。
東京圏から佐賀市に移住し、起業や就職をされた人には移住支援金として単身移住で60万円、世帯移住で100万円を支給する移住支援金があります。さらに、テレワークなどで同市に滞在する都市圏の企業や従業員向けに独自の制度や特典も用意されています。住まい探しには、「空き家バンク制度」(市北部山間地域限定)、「空き家改修費助成制度」(空き家バンク制度登録物件のみ対象)などがあります。
子育て支援に注力する佐賀県は、「子育てし大県“さが”プロジェクト」を推進。産後ケアの体制整備や子どもの自然体験活動推進など出産から子育てまで支援を行っています。佐賀市内には親子同士の交流や育児相談、子育て講座などを実施する「子育て支援センター」が12ヵ所に設置されているほか、未就学児童を預けられる「一時預かり保育」や3時間以内の託児を受け付ける「ゆめ・ぽけっと」など託児サービスも整っています。
佐賀県では女性が活躍しやすい職場環境の整備に取り組む事業主を支援する「女性活躍推進オーダーメイド補助金事業」を実施しており、県内の中小事業所における女性活躍を推進しています。なお、佐賀市内のハローワーク佐賀にはマザーズコーナーが設けられており、子育てや介護をしながら就職を希望する人に対し、職員が担当者制による就職支援を行っていますが、キッズコーナーなども確保されているほか、マザーズセミナーも開催されています。
佐賀県には医療機関情報と救急医療情報の二つの機能を持つ「99さがネット」があるほか、夜間や休日に子どもが急病にかかった際、必要な診療が受けられる佐賀市休日夜間こども診療所や応急対処の方法や受診の要否を相談できる小児救急医療電話相談など子ども向けの医療機関も充実。また、高度救急救命センターを抱えドクターヘリを運航する佐賀大学医学部附属病院、佐賀県医療センター好生館等先進医療を受けられる環境が整っています。
森記念財団都市戦略研究所が経済規模や文化度などを都市力として109都市を対象にした「日本の都市特性評価2020」によれば、佐賀市は38位でした。しかし、生活居住分野は16位、環境分野18位と高位置にあります。特に生活居住については、人口当たりの医療機関数も多い健康・医療、生活利便施設、環境やコストなど市民の日常生活における満足度の高さなどもうかがえる生活の余裕度が評価されているでしょう。
“熱気球の街”ともいわれる佐賀市では、毎年11月上旬にアジア最大級の「佐賀インターナショナルバルーンフェスタ」が開催されていますが、会場となる広大な穀倉地帯の佐賀平野は、同市の魅力の一つでもあります。一方、ここ2、3年で新たに拠点を構えるIT企業が多く進出し、地元での雇用も創出するなどIT先進地としても注目されているほか、「SAGAアリーナ(仮)」の建設や佐賀駅周辺の整備などが進む都市の利便性やのどかな自然環境、日常生活の環境といったバランスのとれた暮らしやすい佐賀市は、地方都市への移住を考える上で有力な候補地の一つといえるのではないでしょうか。